富裕層から過去最高の申告漏れ所得516億円を把握

国税当局では、有価証券・不動産等の大口所有者、経常的な所得が特に高額な者などいわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に調査を実施しており、所得税調査における“重点課題”と位置付け積極的に取り組んでいる。今年6月までの1年間(2015事務年度)には前年度比0.4%増の4377件の富裕層に対する実地調査が行われ、調査を開始した1997年以降過去最高の申告漏れ額516億円を把握した。

富裕層に対する所得税調査の結果、調査件数の約80%に当たる3480件(前年度比1.9%増)から何らかの非違を見つけ、その申告漏れ所得金額は516億円(同32.3%増)で、加算税を含め120億円(同18.8%増%減)を追徴。1件当たりの申告漏れ所得金額は1179万円(同31.9%増)、追徴税額273万円(同18.2%増減)となり、追徴税額は、所得税全体の実地調査(特別・一般)1件当たり155万円と比べ約1.8倍にのぼる。

また、近年資産運用の国際化が進んでいることから国税当局では富裕層の海外投資等にも目を光らせており、同期間中にも海外投資を行っていた565件(前年対比26.1%増)に対して調査を展開し、約82%に当たる461件(同27.3%増)から168億円(同60.0%増)の申告漏れ所得金額を把握、43億円(同72.0%増)を追徴している。1件当たりの申告漏れ所得金額は2970万円(同27.1%増)と高額だ。

調査事例をみると、いわゆるタックスヘイブンでのペーパーカンパニーを介して行った取引の実態を把握したものがある。調査対象者Aは、部内資料等から、自身が出資しX国に設立した法人Yより、本人が申告したコンサルタント報酬以外に送金を受けていたことが分かった。調査の結果、法人Yは、調査対象者Aから譲り受けた知的財産権を、X国の居住者Bに買い値の数十倍で転売することで多額の利益を得ていた。

法人Yは、その利益の一部をAに還流していた。法人Yは事業実態のない法人だったため、外国子会社合算税制を適用し、ペーパーカンパニーに生じた知的財産権の譲渡益をAの所得として課税した。国外財産調書の提出がなかったため、その提出を受け、その国外財産に係る過少申告加算税を5%加重し賦課した。Aに対しては、3年間での申告漏れ所得金額約1億3700万円について、加算税を含む約5500万円の税額を追徴している。

国税庁では、このように、いわゆる“富裕層”に対して、資産運用の多様化・国際化が進んでいることを念頭に置いて、国外送金等調書、国外財産調書、租税条約に基づく自動情報交換資料などのさまざまな情報を活用し、海外取引・海外資産関連収入の的確な把握及び積極的な調査に取り組んでいる。近年の所得税調査は、富裕層を始め社会的波及効果の高い、かつ、高額・悪質を優先した深度ある調査が特徴となっている。